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第十九回 ネットの所得はゼロサムか?

個人所得税や法人税は取引から生じるネットの利益を課税標準としている。これに対して消費税は、付加価値を課税標準としている(もう少し正確にいうならば、消費税は、消費者の最終消費に対する課税であるが、実際には、最終消費に至る各取引段階における付加価値に対応する税額を、各取引段階の事業者が、それぞれ納税するという意味で、付加価値税が実質的に課税標準になっている)。
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国全体の付加価値の合計はGDPであるが、国全体のネットの利益はいくらになるだろうか?海外取引がなければゼロである。簡単な例で考えてみよう。100円のものを生産してBに販売したAと、100円のサービスをAに提供したBがいたとする。この時のGDPは200円であるが、Aのネットの所得はゼロ、Bのネットの所得もゼロ、従って、国全体のネットの所得はゼロになる。
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ならば、個人所得税・法人税の所得はどこから生じるのだろうか?先の例で言えば、Bが購入したものが費用ではなく資産に計上されれば、Bの所得は100になる。しかし資産計上されたものは、減価償却を通じて費用化されていくので、長い期間をとれば、やはり経済全体では所得は生じない。
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数値例を変えて、Aの販売したものが200だったとしよう。Aの所得は100、Bの所得はマイナス100ということになり、この場合にも経済全体の所得はゼロであるが、Aの所得については課税されることになる。皮肉なことであるが、原理的には欠損法人が多ければ多いほど経済全体の所得税・法人税の課税標準は大きくなる。世の中の法人の7割以上は欠損法人といわれるが、その分の所得が他の法人で計上されているということになる。
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その他に、株価や土地の価格、その他保有する資産の価格が上昇すれば、それは所得になる。逆に資産の価格が下落すれば、所得のマイナス要因となる。資産価値が右肩上がりの時代には所得税・法人税の大きな税収源となったが、資産価値の下落局面では減収要因となる。バブル崩壊後に上場会社の時価総額は数百兆円、土地の時価総額は1000兆円以上下落した言われる。また、日本の銀行は約100兆円の不良債権処理をした。これらの資産価値の下落が法人税・所得税の課税標準を侵食したことは言をまたない。
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個人所得税においては家事上の経費は所得から控除できないので、この分については、課税所得が生じる。サラリーマンの所得税が大きな税収源となっている制度上の理由である。その他、国際取引から生じる経常黒字は比較的安定的な経済全体の所得構成要因である。
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以上のように、個人所得税・法人税の課税標準は様々な要因によって左右される。重要なことは原理的には経済全体ではネットの所得は生じない構造になっていること、所得の要因になっているのは、家事上の経費、誰かの欠損、資産価値の上昇など不安定なものであることである。

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