千倉書房 連載ブログ

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第一回 誤った処方箋

財政再建や増税をめぐって巷でこんな評論を耳にする。

「社会保障の財源がない」
「これ以上国債を発行して将来世代への負担の先送りをすることはできない」
「まずは公務員が身を削るべきだ」

財政再建や増税は、国全体のマクロ経済の話であり、国という共同体の経済厚生を最大化させるものでなくてはならない 。例えばここに一億円あったとしよう 。この一億円を個人が手に入れたなら、その一億円で家を買ったり、その一億円をレジャーに使ったりすることができるだろうが、国というマクロの経済主体が一億円という貨幣を印刷しても、その一億円で家を買えるわけではない。マクロ経済において貨幣は購買力を表象するものではなく、経済取引を惹起するための触媒にすぎない。

社会保障の財源も同じである。マクロ経済を前提として考えれば、必要なのは介護をする労働力、医療を提供する労働力が国にあるかどうかであり、そのための財源があるかどうかではない。仮に財源がないという一方で、巷に非自発的失業者があふれているとすれば、問題の本質は、財源不足ではなく、市場を通じて労働資源の配分がうまくいっていないという市場の失敗である。市場の失敗を財源不足と理解して増税しても、問題は解決しないだろう。ミクロの視点とマクロの視点を混同して誤った処方箋を出しても、問題は悪化するばかりである。

この手の話は財源不足の問題だけではない。国債の発行は負担の先送りだろうか?公務員の人件費削減で財政再建できるだろうか?本連載では、望ましい税制の提言に先立ち、この手のマクロ経済の諸問題について整理したい。その際に基本とする視点は、国民経済は分業(生産)と交換(消費)を通じてその厚生水準を高めることが本旨であり、国民の厚生水準は消費で測定すべきということである。

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