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税務訴訟(3)―要件事実論の世界も視野に―(29)

どのようなことを、どちらの側に対して立証責任を分配するのか、いまだ不明


 立証責任に関するどのような議論ないし判示が、最近の移転価格税務訴訟事案においてなされているのかを、筆者の簡単なコメントとともに、以下、見てみる。

1.船舶事件(松山地裁平成16年4月14日判決)の判旨
『基本三法のいずれを採るべきかについては(税法上規定がないので)、課税庁の判断にゆだねられている。本件では、CUP法を用いるよりも、RP法、CP法ないしその他の方法に拠ることのほうが優れているとの主張、立証が原告納税者からなされていないから、被告課税庁がCUP法を採用したこと自体には、特に、問題もない。』
[コメント] 納税者がRP法、CP法、その他の方法の方が優れていることを主張立証すれば、課税庁主張のCUP法が覆るとの判示であると理解できるがどうか。

2.金利事件(東京地裁平成18年10月26日判決)の判旨
『課税庁の主張する算定方法は、措置法所定の規定に適合したものである。これよりも優れた算定方法が存在することの主張・立証は納税者からなされていない。したがって、課税庁による本件各更正処分を違法ということはできない。』
[コメント] 優れた方法であることを納税者が主張立証すればその算定方法が認められるとの考え方自体は、首肯できる。

3.ソフト事件(東京地裁平成19年12月7日判決)の判旨
『課税庁は、一般に所得の存在について主張立証責任を負うので、基本三法と同等の方法を用いることができない場合に当たることについても立証責任を負う。しかし、課税庁が合理的な調査を尽くしたにもかかわらず、基本三法と同等の方法を用いることができない場合には、そのことが事実上推定され、納税者側において、基本三法と同等の方法を用いることができることについて、具体的に主張立証する必要がある。』
[コメント] 「基本三法を用いることができないことを立証すること」が、「その他の方法を主張立証するための前提要件である」との解釈が前提となっての判示なのかどうか、基本三法と同等の方法がその他の方法に「優先する」ことを証明することが要件となっているとの解釈を前提にした議論なのかどうか、などが不明である。

4.ソフト事件(東京高裁平成20年10月30日判決)の判旨
『本件算定方法が、再販売価格基準法に準ずる方法と同等の方法に当たることは、課税根拠事実に該当するから、上記事実については、処分行政庁において主張立証責任を負う。』
[コメント] 課税根拠事実について課税庁が立証責任を負うとの考え方自体は、一般論として理解はできる。?

5.電子接続部品輸出事件(大阪地裁平成20年7月11日判決)の判旨
『通常の利益率になんらかの影響を与え得る差異が存在することは、それが取引態様等から客観的に明らかなものでない限り、通常これを裏付けるに足りる証拠を容易に提出し得る地位にある原告が立証すべきであり、原告がこの点についてなんら説得的な立証を行わない場合には、そのこと自体から、そのような差異が存在しないことを推認し得る』
[コメント] 上記「2」「3」「4」「5」の考え方の整合性の有無につき、要検討である。

 各判決の内容は、必ずしも相互に整合的なものか否か検討が必要であり、今後の裁判例の蓄積を待つ必要もある。
 移転価格税制では、「比較対象取引」の概念がコアであるので「類似している」事実の証明が重要であり、その証明責任がいずれに、どのように分配されるのかは、勝敗を分けてしまう問題である。
 ここで、立証責任の議論を主要な柱とする要件事実論の分野とは何かといえば、いわば、だれがどのような事実について立証責任を負うべきなのか、という観点から実体法を考えていく世界である。これまで、推計課税の分野をはじめとして、「立証責任」という形での議論は税務の世界でも行われてきているが、いわゆる要件事実論という形ではあまり意識されてはこなかった。この議論は緒に付いたばかりであり、検討すべき点がたくさんある。したがって、実務及び学術の世界で、今後多くの研究がなされる必要がある。

(以上)

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