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税務訴訟(2)―税務訴訟の主な争点―(28)

移転価格税務訴訟ではどのような点が争いになるのか。移転価格問題の本質は何か。

? これまでに日本で訴訟になった移転価格課税事案では、どのような点が争われているのか。これまでに公になった5つの訴訟事案の争点のうち特徴的な議論をみると、その内容は、次のとおりである。
1.ややプリミティブな内容の議論も見られる!
? 「移転価格の議論の内容も、円熟期に入った!」というには、やや時期尚早のようである。なぜなら、ややプリミティブと思われる議論も、いまだにみられるからである。例えば、納税者が、「海外子会社との間で価格を同一にする戦略を取っているから、そういう価格は移転価格税制上そもそも問題にはなりえない(すなわち、納税者がグループ全体戦略として決めた価格が正しい独立企業間価格になる)はずである。」旨の主張をし、判決では、「自由競争市場において同一又は類似の条件の下に同様の取引が非関連者間で行われた場合の価格こそが独立企業間価格とされる。これと異なるものは、独立企業間価格とは言えない。」とされ、納税者の主張が退けられた(大阪地裁平成20年7月11日判決:電子接続部品輸出事件)。このような議論は、移転価格の税務訴訟の経験ないし積み重ねが少ないことにも原因があろう。

2.差異調整の議論―移転価格税制の本質―
? 最も議論されることの多い論点は、算定方法に関するものである。これは、比較対象取引に関する論点と言い換えても同じである。なぜなら、現行法規の定めは、移転価格算定方法の要件として、「比較対象取引の価格を独立企業間価格とする」旨規定している。ゆえに、比較対象取引に該当する要件が満たされたかどうかが常に問題となる。したがって、個々の訴訟事案の議論でまず登場するのが、「算定方法は適法か」「比較対象取引の選定は適切か」といった大くくりの議論である。そして次に行われる議論は、特に後者の比較対象取引に関して、より具体的に、「比較対象取引は実在のものであることを要するか」、「差異はあるか、いくつあるか」、「その差異は価格ないし利益に影響を与えるか」、「行われた差異調整は適切か」というものである。移転価格税制は、筆者が「差異調整の税制」と呼ぶように、適切な差異調整が行われたかどうかという議論がたくさん行われる。
? ここで問題は、次のような点にある。すなわちほんの一例を挙げると、「取引規模の差異調整」につき、その国外関連取引と比較対象取引との差異が10倍までなら比較可能性があるといえるのか、2倍までという基準で判定すべきなのか、などが明確でない(例:電子接続部品輸出事件)。このように、納税者にとっても課税庁にとっても、よるべき客観的判断基準が存在しない点に、移転価格税制の問題の本質がある。税務調査時、国内救済手段や、相互協議での議論時のいずれにおいても納税者と課税庁との間に(日本の課税庁と外国の課税庁との間でも)合意がなかなか得られない原因が、ここにある。さらに、移転価格課税が、租税法律主義違反や、納税者の権利侵害の問題を惹起しているとの指摘までなされる背景でもある。すなわち、明確な国際的共通ルールの不存在ということこそが、問題の元凶である。

3.その他の議論(シークレット・コンパラブル、立証責任など)
? その他、シークレット・コンパラブルに関して、質問検査権の行使に関する議論がある。例えば、「シークレット・コンパラブルの場合は、納税者が十分に価格を検証できないが、そのことから直ちに、重大な違法があるということにはならない」との判示がある(電子接続部品輸出事件)。
 さらに、立証責任の分配に関する議論も行われている。しかし、立証責任については、議論が緒についたばかりであり、明確な解釈基準が確立されたとは、まだ言えない。この議論は、自己の主張が認められるかどうかに関係するので、訴訟での勝敗に重大な影響を及ぼす。したがって、今後における立法当局の動き、司法の判断の流れを注視するほか、実務及び学術の世界での議論を深め、立証責任の分配に関する考え方を明確にする必要がある。そこで、次に、立証責任などに関する現在の議論を外観する。

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