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移転価格税制(2)~記事に対するコメントあり

租税特別措置法通達664(2)-3

「比較対象取引に該当するか否かについては・・次の諸要素の類似性に基づき判断する・・(7) 売り手又は買い手の負担するリスク。」

OECD移転価格ガイドラインpara-1.23

「それぞれの当事者が引き受けた重要なリスクを者慮に入れていない機能分析は不完全である。なぜならば、リスクの負担又は配分は、関連企業間の取引の条件に影響を与えるからである。」

移転価格課税はリスクの負担関係を分析し、それに基づいて行うこととされている。
しかし、それが可能かという問題がある。

例えば、前回の例で、親会社Pが米国子会社Sに製品を輸出しており、Sはこれを販売するため米国内で広告宣伝費を支出しているとする。Sが米国内で広告宣伝を行ってSの売上が増加すると、PのSに対する輸出も増加し、Pも利益を受けることとなる。したがって、PにはSが行う広告宣伝費の一部を負担する理由がある。ところがPの費用負担額の多寡によりP及びSそれぞれの所得は変動する。このように、関連企業間の所得額は、製品の輸出入取引に係る移転価格だけではなく、費用の負担関係によっても影響を受ける。
この例では、たとえ10億円の広告宣伝費を支出しても、それによって必ず10億円以上収益が増加するとはいえない。その意味で、費用を支出したり負担するということ、言い換えれば、事業を行うということは、リスクを負担することであるといえる。企業が行動すると必ず費用負担が伴い費用負担には必ずリスクが伴う。また、取引条件に含まれるリスクの負担関係も取引価格に影響を与え、企業の所得に影響する。このように、リスクの負担関係は企業の所得に影響を与えるということは、確かにいえそうである。

一方、ある企業活動に伴うリスクを負担するということは、その企業活動の帰結(そのリスクの結果損益=帳尻)を享受するということである。リスクを負担したという以上はその帳尻を受けなければならない。そして企業の所得は、企業が負担したいろいろなリスクの帳尻の凝縮物といえるから、所得それ自体がそれぞれの企業のリスク負担の結果を示しているということが出来る。関連企業グループ内の所得の配分を変更することは、グループ内でリスクの帳尻を受ける企業を変更すること、すなわちグループ内におけるリスク負担関係を変更することを意味する。そうすると、リスクの負担関係の帰結を示すものである所得を、リスクの負担関係に基づいて別途算定したり検討するということは可能なのかという問題が生じる。これは、企業グループ内においてそれぞれの企業の所得をどのように把握すべきかという、所得概念に関わる問題を提起することになる。

移転価格税制(2) 印刷用PDFはこちら

コメント / トラックバック 2 件

  1. 小暮裕子 より:

    藤澤先生の仰る「費用を負担するということは、リスクを負担することになる」は非常に判りやすいです。そして、その通りと思います。次に、「リスクを負担することは、帳尻を受けなければならない。だから、帳尻の凝縮物が所得である」の意味を確認させて下さい。その意味は、「リスクを負担した者はより多くの粗利益を獲得すべきであり、より多くの粗利益は国外関連者からの仕入価格を調整することで得られる。その仕入価格の調整は恣意的に行うものではなく、リスクの多寡を勘案して決定すべきである。そのことによって、適正な所得が計算できる」ですか?確認させて下さい。

  2. 藤澤鈴雄 より:

    もう少し基本的なことです。 Aが宝くじを買った(リスクをとった)というならば、賞金はAに与えられるべきであり、外れた場合の損失(くじ代)はAが負担しなければならないということです。この場合の賞金とくじ代の損失が宝くじというリスクについての帳尻です。リスク分析をするということは、誰が宝くじを買ったのかを認定することであり、Aが買ったと認定するのであれば、その賞金又は損失(帳尻)をAに与える必要があります。逆に帳尻が既に分かっている(損益が計上されている)のならば、それ自体がくじを買ったかどうか(リスクをとったかどうか)を示しているともいえます。これまでの移転価格におけるリスク議論は、誰が宝くじを買ったのかということは議論するのですが、賞金の受取人は気にしていないように見えます。リスク論はこの後の本論でも触れたいと思います。

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