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移転価格税制について ?納税者の視点から(11)

  前回、移転価格税制の課税にホンネからして納得している納税者は少なく、却って「恣意的」な課税をされた、とのいわば被害者意識的が残っている場合が多いのではないかと申し上げました。具体的な争点としていくつか思いつくところをあげると、例えば独立企業間価格は「幅」としてとらえ、レンジで測定されるべきか、あるいは本来はあるべき移転価格は一つであるとしてできるだけしぼりこまれるべきか、についての判断の対立、またグループ会社がJ/Vであり第三者のパートナーがいる場合、そことの取引価格が独立企業間価格といえるのかどうか、について、の判断の対立、などがあります。

  このような問題は一筋縄ではいかないものですが、ひとつのやり方として、移転価格税制の本来あるべき根本である独立企業原則を中心とした原則的な考え方と判断基準を受容したうえで其れに沿って判断の場をもうける、ということがありえ、納税者と当局のより生産的な「会話」の地盤を形作ることにつながるのではないかと思われます。

  独立企業間原則(Arms length Principle)の詳細に拘泥するつもりはありませんが、簡単にいえば、「適正な」価格とは、独立した第三者間で合意されうるような価格である、ということになります。特徴的なのは、価格そのものでなく、それが決められた状況が重視されることで、極端にいえば、どんな価格であろうと、「独立した第三者間」で合意されたものであれば良いとされる点です。私が幼いころ、感心したクイズにこんなものがありました。「二人きりで秤も何もない時に金塊を公平に分ける方法は?」。答えは「一人が納得いくように二つにわけ、もう一人が好きなほうを取る」。金塊の量そのものより、金塊の量が決められた状況そのものが判断のポイントになるわけで、市場原理に基づく経済学的な考え方の基礎のひとつであり、独立企業原則に基づく判断に近いものといえます。

  このような考え方によれば、何よりも、比較対象取引の状況、即ち市場、経済条件、取引条件等が当該取引とどの程度類似しているのか、が重要となります。多くの場合、全く同じ状況下という第三者間取引の特定は難しいので、類似性のレベルを落とすことになります。レベルを落とせば落とすほど、そこでの価格(利益)が、実際の独立企業間価格(利益)である信頼性は薄れてくるわけで、それを補う方法として、同等レベルの取引をできるだけ多く拾い、そのなかのいわば異常値を排除することによって信頼性の高い価格(利益)レンジを作り出す方法が浮上してくるのです。ただし、このような考え方は、税務当局にとって、異質であり、疑わしいものと思われている場合が多いようで、しばし、レンジが否定されたり、状況によらないある種のスタンダード価格(利益)が基準として使われたりすることもあるようです。

  また独立企業原則の影響は、他の事例、例えばJ/Vである子会社との取引価格が独立企業間価格であるかどうかの判断にも及びます。ここでも、正解は、価格(利益)そのものにはなく、価格決定にあたって子会社と親会社のが、「独立第三者間」であるといえるような関係にあったかどうか、だけによることになるわけですが、独立企業原則にもとづく議論なきまま形式的に国外関連者間取引であるものと決め付けられるか、或いは、そうでなくとも、原則ではなく、通達などによる個別の判断基準だけでの評価がなされ、納税者にとって、これまた、「恣意的」と受け取られてしまうような結果になってしまっていることもままみられたようです。このたび、平成22年税制改正以降運営指針などにて、判断の余地がひろがったようですが、もともとこの問題も、独立企業原則をもとになるべきものです。

  上のようなケース以外にも、「恣意性」をもっての判断を防止し、少なくとも「予測可能性」の高い、合理的な判断と結論を生み出すためには、個別の機械的な判断基準をならべるのではなく、独立企業原則を共通の地盤とした議論とそれに基づく判断が、遠回りのようで近道なのではないか、と感じられることが意外と多いものです。

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