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移転価格税制(9)

〔まとめ:関連者間における所得概念の問題〕
 関連者間における取引価格を通じて課税所得が国外へ移転することへの対応が移転価格課税の出発点であり、これを規制する移転価格課税制度も取引対価に着目した規定ぶりとなっている。しかし、課税所得の移転は取引価格だけを通じて行われるものではなく、費用の負担関係によっても生じる。

現行制度では取引対価及び売上総利益率を検討対象とする基本三法を重視しているが、この手法では費用の負担関係をうまく扱うことが出来ない。したがって方向としては費用を控除した後の営業利益(率)を他者と比較する方法(TNMM)か、又はグループ内で営業利益を配分する方法(PSM)といった利益法に主として依存して行かざるを得ないと思われ、執行の現状もそのような流れにある。

 その場合に、何を分母とした利益率を使用するか及び何に基づいて利益を分割するのかという利益水準指標(第8回を参照)が再検討される必要がある。現行制度では売上高や売上原価等が利益率の分母として重視されているが、これらは必ずしも適当とはいえない。課税権の配分という観点からは、企業活動の実体を示す人や設備の存在を示す指標を重視すべきである。この視点は比較可能性(比較対象取引として適当かどうか)を検討する場合にも重要と考える。

また、ハイリスク・ハイリターンといわれるようにリスク負担関係も利益に影響すると考えられていることから、リスク分析が必要とされている。リスクを負担するということはそのリスクに係る帳尻を受けることであるから、リスク負担者を認定したらその者にリスクの帳尻を帰属せしめる必要があるはずである。しかしこれまで各手法について検討してきたように、そのことは論理的に不可能であるといえる。現行制度ではリスク負担者が誰かは求めるが、その帳尻がその負担者に帰属しているかどうかという検討は求めていないようであり、このことが所得計算を不明確なものにしている。

 現行制度を以上のように検討してみると、国境を跨いだ関連者間においてそれぞれの所得は、利益水準指標、比較可能性検討上の視点及びリスクの取扱いという所得算定の基礎となる要素によって決定づけられる方向にあるが、このような要素とそれらを用いた計算の基本的な論理とについて更なる詰めが必要であることが分かる。このことは関連者間においては所得概念自体が問題となっているということを意味する。わが国でも制度導入後24年が経過する今、むしろ足下の議論が求められている。

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