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移転価格税制(6)

〔TNMM:同種又は類似の棚卸資産等取引の営業利益率を比較〕
 第3回で説明したとおり、取引単位営業利益法はTNMMと呼ばれる。今回は、TNMMについて検討する。TNMMは、RP法又はCP法の売上総利益率に替えて営業利益率を比較する手法と考えればよい。輸入者側で適用する場合には、売上高に対する営業利益率が用いられ、輸出者側で適用する場合には総費用(売上原価+販管費)に対する営業利益率が用いられる。この手法も、果たす機能や負担するリスクに差異がある場合にはその調整が必要とされる。

 TNMMのリスク問題を検討する。営業活動に関する殆どのリスクの結果損益は、営業利益に含まれることとなる。そしてRP法/CP法で議論したのと同じく、同様なリスク対応(例えば販促)を行ったとしても、その結果損益(売上増や販促費用)は比較対象取引とは異なってくるはずである。したがって、TNMMでもリスク負担者にその結果損益を帰属させることは出来ない。

このことは、TNMMの適用によりリスクの負担関係が変更されたり決定されることを意味する。例えば、P社から輸入した商品を子会社S社が販売する取引で、P・S間の移転価格を算定するため、S社側にTNMM適用することとして、リスクの負担関係を含めて比較対象取引を選定し売上高営業利益率1%を適用したとする。すると、どのような状況になってもS社には一定の営業利益が保証されることになる。つまり、TNMMを適用したことにより、比較対象を選定したときに考慮したリスクの負担関係の如何に関わらず、S社には事業損失リスクがなく殆どのリスクの帳尻をP社が受けることとなる。TNMMの適用によりリスクの負担関係が変更され、決定されている。これは、S社の行為の結果が全てP社に帰属するということと同義であり、P社がS社に販売を委託し、S社の販管費を負担した上に売上高の1%を手数料として支払うといった契約形態と同様の結果をもたらす。

 このように、現行制度はリスク分析に基づいた(リスクの負担関係を考慮した)TNMMの適用(所得計算)を要請しているのであるがそれは不可能であり、実はむしろTNMMの適用それ自体が関連者間における(殆どの)リスクの負担関係を決定しているというべきなのである。同様に、RP法・CP法においても、その適用は売上総利益に反映するリスクの負担関係を決定しているということができる。

 リスク問題は別として、TNMMには利点がある。それは課税所得により近い営業利益を決定するという点である。第2回で述べたように、基本三法を適用しても費用の負担関係により所得額は変動してしまうが、TNMMではその問題は小さい。(結果の是非は別として)TNMMは費用負担関係も決定する手法ということができ、その意味ではむしろ特にAPA(予め税務当局に適用する移転価格算定手法の確認を求める手続)においては、(対価や売上総利益率を確認しながら、費用負担関係を調整することによって着地点を定めることの出来る)基本三法よりも恣意性の入る余地は少ないといえるかもしれない。

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