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移転価格税制について ?納税者の視点から(12)

?? 前回独立企業原則の重要性とその力について述べました。独立企業原則をタテマエでなく、すべての判断の源として受け入れ、理解を深めていくことは、「恣意性」の解消に近道を解消する方法のひとつとなりえるものです。実際、納税者の方々と移転価格税制と取り組む際、税務に精通されたベテランよりも、以外にも事業部や営業部の方々が、問題の本質をみぬき、対応策を簡単に考え付かれる場合が見受けられます。独立企業原則は、実際のマーケットで直接第三者間取引にたずさわっている方々には意外と与し易いものであるのかもしれません。

?? ここで我が国における独立企業原則にまつわる問題を、ひとつあげておいたほうがよさそうです。実は我が国の法令には独立企業原則についての言明がありません。通達(事務運営指針)には登場はしますが、特段の説明があるわけではありません。冒頭に相当の頁が独立企業原則に割かれているOECD移転価格ガイドラインや米国と制度上の大きな相違を示すものであり、今後の課題のひとつといえるものではないか、と考えております。

?? また、独立企業原則の徹底した受容とそれに基づく議論と判断以外に、もうひとつ、移転価格税制における「恣意性」、「予測不能性」を解消するために、広く、特に多くの日本企業で行われている方法論があります。取引価格が独立企業間価格であることのいわば保障を、関連する当事国間の税務当局の相互協議によって得る方法です。実際に発生した二重課税の解消のための協議、将来の取引価格を定めるために協議(事前確認。APA)があります。下の図は、近年のその事前確認の申請、処理、継続件数を表しています。

??(画像をクリックするっとpdfファイルが開きます)

? ?日本企業においては近年この方法に頼るケースが増大していることがわかります。事前確認によれば、ロールバックも含め、過去将来の相当長期間の移転価格についてその独立企業間価格レンジがいわば「保障」されたことになり、二重課税のリスクが解消されます。更に多くの場合、事前確認による、ということは、その取引が両当時国において移転価格税務調査の対象でなくなることを意味し、税務調査対応のコストも回避することができるようになることを考えると、納税者が重要で大きな取引について、この方法を選好することも理解できるところではあります。逆にいえば、多くの納税者が、事前確認にかかるコストより、税務調査対応などにかかるコスト(これは例の「恣意性」や「予測不能性」が残ってしまうようなコストも含みます)をより高いものと考えていることも示唆しているのかもしれません。

?? 最後にまた触れておかねばならないのが、以上のように、例えば独立企業原則にもとづく議論と判断の徹底や、あるは相互協議によって、二重課税や、「恣意性」、「予測不能性」を回避してもなお残る企業のグローバルグループ経営と移転価格税制の矛盾、齟齬の問題です。

独立企業原則によって類似した状況のもとにおける第三者の市場価格(利益)との比較で価格の適正性が決められるということは、逆にいえば、しかるべき他社の価格(利益)レンジ内になるよう移転価格が定められることが税務上要請されていることを意味します。これはあくまで税務上の要請であり、経営の良し悪しとは関係のないことになります。極端な例ですが、類似した状況において独立第三者が「汗水たらして」実現した利益が、税務上の要請によって、グループ企業には努力も汗水も無しで実現されてしまうことも、また同様にその逆も、ありうるわけです。

?? このようなケースは大変多く見られ、我々も多くの納税者と取り組んでおりますが、税務上の要請が、キャッシュロスもありうる深刻なものである以上現実的な対応が必要となります。特にこのような問題に対応するには多くの場合、管理会計の有効な利用が効果的です。実際の取引は税務上の要請に従って、独立企業間価格(利益)で行いつつ、グループ企業各社或いはその部所についての社内評価は、必ずしも独立企業間価格によらず、企業毎の考え方に基づく、管理会計によって行うのです。

?? このような方法の適用は決して絵空事ではありません。特に欧米の大企業の多くはこのようなシステムを備えて運用しており、近年この方法を導入する日本企業も増加しております。

?? 以上、私のシリーズでは、独立企業原則、「恣意性」や「予測不能性」とその解消、独立企業原則とグループ経営の齟齬、などのポイントについて、できるだけ納税者の視点から現在の移転価格税制のもつ課題の一端について、その対応策のヒントとともに考えてみました。短いながら、皆様が今後移転価格税制への対応に取り組む際の一助となることを祈りつつ、次の講師にバトンタッチしていきたいものと思います。
以上

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