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海外への本社移転の検討 (8)

本社機能の海外移転と相続税・贈与税(その2)

日本での相続税を免れるために居住地を日本から海外に移すというタックスプランニングは実際に存在する。参考となる判例として、武富士事件を紹介したい。この事件は、資産家が、国外財産(オランダ法人の株式)を、香港に居住する者に対して贈与した案件である。国外財産を非居住者に対して贈与した場合には贈与税が課されないというルールがあって、本件でも当事者はその点を踏まえて贈与税の申告をしていなかったところ、税務当局から、非居住者であることを否定されて課税されたものである。これに対して、納税者側が国を相手に税務訴訟を提起した。
この事案に関して、今回、以下の二点についてコメントしたい。

1. 税務当局を意識した対応
一つは、「非居住者」に該当すると課税されないからといってタックスプランニングを行うと、税務当局から、そもそも「非居住者」に該当しないという事実認定をされるリスクがあることだ。本件では、当該納税者は、3年半もの間、香港に本拠地を置いていた。その期間中、月一度のペースで日本での取締役会に参加すべく、帰国していたが、それでも当該期間中の国内滞在日数は26%程度であった。独身だったために家庭が日本にあったという事情もない。以上の状況を踏まえると、客観的には「非居住者」といえそうなものだ。しかしながら、税務当局が異を唱えたのは、どうやら当該納税者に租税回避の意図がうかがえたことが大きな要因だったように思われる。本件のケースに限らず、税務当局から否認されないためには、租税回避の目的のために行っていると言われないように注意することが肝心ということだ。

2. 本件最高裁判決(平成23年2月18日)のポイント
二つ目のコメントは、この事件について出された最高裁の判決に関するものである。最高裁において、納税者側が勝利した。最高裁は、納税者が「非居住者」であることを認めた。最高裁の考え方のポイントは、居住者か非居住者かの問題については事実認定の問題であることから、租税回避の意思の有無とは関係なく客観的に決せられるべきだとした点である。納税者に租税回避の目的がうかがえる案件においては、税務当局が課税するために歪んだ事実認定をする場面が実際に存在しており、この傾向は、税務訴訟における裁判所の姿勢においても時々見られる。本来、租税回避の有無と事実認定の有無は切り離されるのが当然であるところ、上記最高裁判決は、この当然のことを確認する数少ない判決の一つといえる。

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