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海外への本社移転の検討 (3)

「三角合併」
 日本企業が海外に本社を移転する方法の一つとして三角合併が挙げられることが多いですが、果たして現実的に使える方法なのでしょうか?

三角合併による方法とは?

 例えば日本企業であるT社の本社機能を三角合併の手法を用いてシンガポールのP社に移す事例を考えてみます。その目的を達成するために、P社が日本国内に完全子会社であるS社を設立します。次のステップとして、S社がT社を吸収合併するのですが、三角合併では通常の合併と異なり、合併の対価としてP社の株式をT社の既存株主に対して交付します(なお、通常の合併では合併の対価は合併する会社自身の株式すなわち上記設例でいうとS社の株式ということです)。三角合併の結果としてどのような形が完成するかといいますと、シンガポールにP社があり、日本にはP社の完全子会社としてS社があって、S社がT社の事業の全部を承継しております。T社の既存株主だった者たちは三角合併の結果としてP社の株主となります。

三角合併は現実的な手法か?

 三角合併は、本来、外国の会社による日本企業の買収手段として利用されることが想定されているものです。そのような三角合併という手法を、日本企業が海外に本社機能を移転する方法として利用することは果たして現実的なのでしょうか?

 まず、日本企業のうち上場会社において、上場ステータスを維持したままでこの手法をとることは現実的には難しいと思います。上場会社がこの手法を用いようとすると、当該上場会社自身は上記の設例で言えばT社ということになるのですが、当該上場会社自身はS社に吸収合併された結果、P社の完全子会社になるので、当該上場会社の株式そのものは上場廃止せざるを得ません。ここで上場ステータスを維持するためには、当該吸収合併と同時にP社の株式を新規に上場することで対応することになりますが、そこまで面倒な手続をしてまで本社機能を海外に移す必要がある場面は稀ではないかと思われます。そもそも合併に際して当該上場会社の株主総会で特別決議による承認が必要になるのですが、本社機能の海外移転のために三角合併をすることについて、そのような承認が得られるほどの強い説得力があるのかという疑問もあります。

 また上場会社であろうとなかろうと、親会社が所在する国の法律によっては、そもそも日本で三角合併を行うことができないという場面もありそうです。すなわち、日本で三角合併を行うためには、上記設例でいうところのS社において、合併対価としてのP社の株式をいったん保有する必要があるところ、P社が所在する国の会社法によっては、子会社であるS社が親会社であるP社の株式を保有することが禁じられており、そのことは日本での三角合併ができないという制約となります。ちなみに、P社が例えば米国の会社であればそのような制約はないのですが、米国以外の多くの国ではそのような制約があるようです。すなわち、P社が米国以外の場合には日本で三角合併を考えることが難しい可能性が高いということかと思われます。
 以上、日本企業が三角合併の手法で本社を海外に移転することは現実的には、少なくとも簡単ではなさそうです。このテーマに関連するトピックとして、次回は、コーポレートインバージョン対策税制について触れます。

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