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クロスボーダーM&A —繰越欠損金(NOL)への熱い思い(15)

 企業買収を検討する場面で決まって出てくる話が、対象会社の繰越欠損金を使えるか否かという問題だ。それは国内案件でも海外案件でも同じこと。もっとも、海外案件(アウトバウンド)では繰越欠損金の議論が特に目立つような気がする。例えば、国内案件では、税務の話といえば、繰越欠損金の問題だけでなくて、セルサイド(売り手)のキャピタルゲイン課税の話だとか、適格組織再編か否かとか、登録免許税や不動産取得税がどうだとか、様々な税務の問題が初期段階から議論される。他方、海外企業を買収する案件では、少なくとも買収側の日本人チームの中では、そして少なくとも検討初期の段階では、税務といえば繰越欠損金の議論が他の論点に比べて注目度が高いようだ。

海外案件で繰越欠損金が熱く議論される理由
 考えてみればその理由は簡単だ。海外案件では、買収取引そのものの税務コストは主に外国の税法の問題であって、日本人だけでは解決できないからである。この点、繰越欠損金の話も外国の税法の問題ではあるが、対象企業の企業価値評価(Valuation)に直結する。Valuationを担当する「インベストメントバンカー」にとっては、たとえ外国の税法の問題だろうと、結局いくらの繰越欠損金を使えるのか、早い段階で詰めておきたいポイントなのだ。

日本人には驚きの海外の繰越欠損金制度
 日本人の感覚だと、対象会社の繰越欠損金を利用するためには、株式取得による買収を選択すればよいという頭がある。その他の買収形態、例えば事業譲渡による買収では繰越欠損金を承継できないし、合併など会社法上の組織再編行為による買収でも、みなし共同事業要件を満たした適格組織再編に該当しない限り、繰越欠損金は消えてしまう。これに対して、株式取得による買収では、濫用的な場合(法人税法57条の2、平成18年度改正)を除き、原則として対象会社の繰越欠損金は温存される。
 そのような日本人的感覚は、海外企業の買収では当てにならない。実際の案件で驚かされたのは、ドイツ企業を買収する案件だった。ドイツでは、株式取得による買収であっても、しかも濫用的な場合でなくても、発行済み株式総数(あるいは議決権総数)の50%超を取得してしまうと、対象会社の繰越欠損金が全額消えてしまうという制度がある。さらに25%超50%以下の取得の場合には、その割合に応じて按分で繰越欠損金が消える。それらはドイツの2008年度税制改正の賜物らしい。
 企業買収に際し繰越欠損金の利用を制限する方向は世界的なトレンドともいえるので、いずれの外国だろうと注意した方が良い。

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