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インドの移転価格税制(26)

長期化する裁判
  前回でソニーインドが「独立企業間価格」をめぐって、インド税務当局と裁判で係争し勝訴したと書きましたが、やみくもに訴訟に持ち込むことはお勧めできません。インドはアメリカに劣らぬ訴訟社会であり弁護士が約600万人もいます。一方、裁判の数に比べ裁判官の数が足りないこともあり全ての裁判は長期化しており、最終結審するのに平均で10年以上かかっております。現在でも未決案件の数は、なんと2700万件になっております。2010年に改定された新移転価格税制では裁定のスピードアップを図るため、司法裁定に替わるものとし、係争解決パネルが設けられることになり9カ月以内に結論が出されることになっております。しかし、この制度が機能するかどうかは2011年度以降のパネルによる裁定結果を見てみないと判断できません。現在のところ裁判のスピードアップを図る最も効果的な方法は、残念ながら、やはり賄賂と言われております。
移転価格に関する文書化規定
  日本では海外取引をする法人は移転価格の妥当性を示す文書の作成、保管が義務付けられており、2010年度の税制改正で作成すべき文書の具体的な範囲が規定されました。インドでも、同様に中央税務当局の定める文書化が要求されておりますが、範囲が日本のようにはっきり規定されておりません。当局から税務調査の通知後30日以内に書類の提供が義務づけられているため、普段から膨大な量の書類を準備しておくことが必要です。必要書類が準備されていない場合、また情報提供に協力的でないなどと認定された場合、ペナルティーが科せられます。しかし、ここも下級官吏の「さじ加減」ひとつといったところです。
租税回避規定
  インドでも移転価格は先進国のものと同様、独立企業間価格を事前に税務当局に妥当性の確認を事前に取り付けることができます。租税協定のある国とは、2重課税を防ぐため、インドと関係国の税務当局が、独立企業間価格についての妥当性について調整の為相互協議を実施することになります。2010年の税制改定案で気になるのでは租税回避規定です。先進国では国際協定は国内法より尊重されますが、インドでは、この国内法にある租税回避規定が優先される内容が盛り込まれることが検討されております。このため、税務当局が独立間企業価格の事前確認の結果を軽視し国際租税回避規定に基づき課税することで大きな混乱を起こすかもしれません。
タックスホリデー
  最近の日本企業はトヨタ、日産自動車など自動車産業、第一三共製薬、エーザイなど製薬業界の例に見られるようにインド国内市場だけを対象とし進出するのではなく、安い製造コストを利用し輸出基地と位置付けて進出するケースが多くなってきました。インド政府も外貨を稼ぐために特別経済ゾーン(SEZ)を設け優遇措置を講じております。輸出志向型企業と認定された企業は輸出から生じた利益に対しては、法人税も進出後10年間免除します。このような免税企業であっても輸出価格が、あるべき移転価格より低い場合は、当局は輸出価格をあるべき価格に修正し、輸出価格と修正後の価格差から生じる所得額には法人税を課すことになります。輸出の際も移転価格の設定には十分注意を払う必要があります。
アンチダンピング税と移転価格
  インドは訴訟大国ということは既に申し上げましたが、アンチダンピング訴訟でもナンバーワンとして知られております。1995年から2006年の間に、世界で2938件の訴訟が起こされておりますが、そのうちインドの訴訟件数が圧倒的に多く456件も占めております。因みに2位が373件のアメリカ、3位がECの362件とインドの訴訟件数は突出しています。最近インドではFTA協定などにより輸入関税が下げられ表面的には貿易の自由化が進められているように見えますが、ダンピング課税を課し国内産業を保護しようとしているのが実態です。従って、移転価格にばかり目を向け、海外にある関係会社からインド市場価格を下回る価格で価格設定をしていると思わぬところで足をすくわれることになります。まさに「前門の虎」の移転価格税制、「後門の狼」のアンチダンピング税制です。
現地に精通したコンサルタントの活用
  移転価格税制を含めインドにおける法律の運用については、表向きと実態には、日本では想像できないような、大きなかい離があります。現地はプロジェクトの推進のスピードアップを図ろうとする際、袖の下を要求されること多くあります。一方、日本の親会社はガバナンスの強化、J?SOXなどによりコンプライアンスの促進が進み、金銭の使途を含め、ますます透明性が要求されるようになってきております。外国の公務員に対しても賄賂を払うことは「不公正競争防止法」で禁止されております。現地法人マネジメントが判断に迷う場面も多くなり、様々なリスクに対処していかなければなりません。しかしインドビジネスは多くの日本企業にとってますます重要になってきております。避けていては競争に取り残されます。スズキ自動車、ホンダ、ブリヂストン、三菱化学などのように成功している日本企業も沢山あります。インドでのビジネスを成功させる為には、インドのローカルの状況、同時に日本の状況にも精通した監査法人、コンサルタントからアドバイスを得ながら、事前に現地の事情を十分に調査し、準備した上で適切な対応をしていくことが必要でしょう。
以上

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