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インドの移転価格税制(25)

財政事情による徴税圧力
  インドの税務当局の厳しい徴税姿勢の背景は、必ずしも、前回で述べた徴税官の「袖の下」の理由ばかりではありません。国の財政が大幅な赤字であり徴税圧力が強いことも一因です。一日の収入が1ドル以下という貧困層が3億人もおり、また一般の人の納税意識も極めて低いため、個人所得税を納めている人口はインド全人口の約11億人に対し僅か0.1%程度に過ぎません。同国の財政赤字はアジアの新興国の中でも群を抜いて高く、財政再建を進めてはきておりますが中央政府、地方政府を合わせた財政赤字幅は2008年度で名目GDP比10.7%(もっとも日本も9.1%程度の赤字)に達しております。不安定な連立内閣による政治的な配慮からも、極端な増税策を取りにくいことから、税金は取りやすいところから取るというのが政府の基本姿勢です。2010年4月に税制改正されましたが、増税より、複雑な税体系の簡素化に主眼が置かれております。
インドの移転価格税制
  移転価格税制については1961年に制定された所得税法により長年運用されてきました。しかし、1990年以前の経済政策は国内産業の保護育成に重点が置かれていたため、海外からの直接投資額は小さなものでした。税務当局も移転価格に対する関心も低く、また法律の改定の必要性も余りありませんでした。しかし、1991年以降の積極的な外資誘致政策への急転換により直接投資が急激に増えるとともに状況は一変しました。旧来の未整備な移転価格税制では対応が難しくなり、時として税務当局による強引かつ恣意的な運用も目立つようになってきました。このため、2001年に正式に移転価額税制が制定され、内容も、かなり具体的なものになりました。しかし、具体的になったことが結果的には税務当局にとってむしろ移転価格に対処しやすくなり、企業に対して厳しい税務調査が行なわれる方向になりました。調査件数は激増しており、更生課税件数は毎年1,000件を超えるほどになっております。
  最近日系企業で税務当局から狙い撃ちされている事例は、下図のように日本本社がシンガポールに金融子会社を設立し、シンガポールからの投資でインドに最終製品を生産する会社を設立し、中間原料、部品などはタイなどASEANにある部品製造子会社からインド会社に供給しするというビジネスケースです。インド会社が合弁であり、タイ子会社が100%子会社の場合、タイ子会社の利益を優先したため「独立企業間価格」を上回った価格でインドに中間原料を持ち込むケース多く見られます。慎重に移転価格設定をしないと、移転価格での課税が課せられることになります。
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  独立企業間価格については、独立価格基準法、再販売価格基準法、原価基準法の基本三法、利益分割法、取引単位営業利益法が選択適用されます。インドの独立企業間価格に関し、企業にとって有利かつ特異な規定は「5%」ルールです。これは、本邦の移転価格税制にはない独立企業間価格に幅を認めたものです。独立企業間価格が複数の比較対象取引の平均値から算定される場合、会社の採用する移転価格が、平均値の±5%内に入っていれば独立企業間価格とみなすというものです。ソニーインドが「5%」ルールの適用を巡って税務当局と裁判で係争し2008年8月に勝訴したのは有名な話です。

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